はるまきさんの記録

自死遺族として考えたことを記録します。

夏目漱石「こころ」

私の読んだ感想を書くことがおこがましく思われるほどに有名な作品。でもここは私の備忘録的な場所なので仕方がない。
 

〈おすすめしたい人〉

救いのない物語を読んでずぅーんとしたい人
 

〈内容その他 ネタばれあり〉

まずはあらすじの前に物語の構成を。物語の構成は、下記の3段となっている。
上 先生と私、中 両親と私、下 先生と遺書。
上では先生と私の関係性を、中では両親と私の関係性を描いており、下は先生からの遺書の全文載せといったかたちになっている。
あらすじは、このとても綺麗な構成をお伝えするだけで十分に事足りるくらいだ。少し付け加えるとするならば、作品中の私(書生)が慕う先生(明治期の知識人)は、友人であったKの自死から逃れらず、自らも自死の道を選ぶ。先生はその心理過程を綴った遺書を、「私の過去を善悪ともに他の参考に供するつもりです。」として、私に残すというもの。そしてこの遺書部分が、この小説の半分を占めていることからもわかるように、この小説の核となっている。
 
この小説を読んで、感想を書くのだけれども、死について考えるほかない。とりわけ自死であるけれど、まずはこの小説における死を整理する。
 
①先生の両親の死(先生が二十歳にならないころに腸チフスで)
②Kの自死 「自分は薄志弱行で到底行先の望みがないから、自殺する」
③妻の母の死
④私の父の死(病から死にいく様を描かれる)
⑤乃木大将の殉死 「西南戦争の時敵に旗を奪られて以来、申し訳のために死のう死のうと思って、つい今日まで生きていた」
⑥先生の自死
 
以上の死がこの小説で描かれるわけだけど、このうち、②、⑤、⑥が自死である。Kの死以降、Kの死は先生にずっと暗い影を投げかけ、乃木大将の殉死で先生は自死を決意するのだが、先生はなぜ自ら死ななくてはいけないのか、先生はその理由をここに書いている。遺書の中で、先生はこんな風にも書いているのだ。
 
「私は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけて上げます。しかし恐れてはいけません。暗いものを凝と見詰めて、その中からあなたの参考になるものをお攫みなさい。」
「私の鼓動が停った時、あなたの胸に新しい命が宿る事ができるなら満足です。」
 
それでは、先生の遺書からなにを攫むのか。人それぞれに感じるところはあるだろう。
でも、私は先生の苦しい日々が終わったことに対する労いの言葉をかけたい一方で、どうして恥をさらけ出してでも、醜くても、生きて行けなかったのだと言いたい。先生は妻を大切にするあまり、その妻を何重にも裏切っていることにほかならないと思うのだ。残された妻は、遺書を託された私は、これからどうしたらいいのだ。格好なんてつけないで正直に生きること、そしてその結果として生まれる責任に向き合い、幸せになるよう努力をすること。先生にはそれができたはずだと私は思う。
 
救いのない話だとは思うけれど、国語の教科書にも載っていた遺書の部分はとても読み応えがあり、読んだことのない人なら読む価値のあるものだと思う。