綿矢りさ「ひらいて」を読みました

〈読んで欲しい人〉

報われない恋に破れた人

 

〈内容〉

主人公は計算高いようで感情のままに生きている女子高生（愛）。好きになった男子（たとえ）には恋人（美雪）がいた。なんとか彼（たとえ）に振り向いてもらおうと彼の恋人（美雪）に接近、不器用ながらも突き進みますが、というもの。

 

〈個人的な偏見・感想（ネタばれあります）〉

報われない恋に破れた人に読んで欲しいと書いたが、そう言う自分がそうで、文庫本の裏表紙を見て読み始めた。綿矢りさの小説にある狂気の部分が前面に出てきている作品で、物語に意外性もあり良い小説だった。オタクな部分はなりを潜めてます。

直情的な主人公・愛は、盲目なまでのたとえへの好意に突き動かされて、愛自身が戸惑うような行動もとるようになっていく。その行動はとてもじゃないが、読者である私たちにとって突飛なもので、ありえないとも思えることではあるのだけれど、そんな愛の不器用さに読者は感情移入してしまうのではないだろうか。そんな愛は、私たちに不器用な恋を思い出させてくれる。

そしてその対比として、愛の形の理想として、たとえと美雪のカップルの関係性が提示される。愛はその二人の関係をかき乱そうとし、その行為自体やその結果に苦しむことになるけれど、彼らは愛を許す。

「”なにも心配することはない。あなたは生きているだけで美しい”と丁寧に言い聞かせてくれる存在を渇望し、信じきりたいと望んでいる。自分もだれかのそんな存在になりたい。」、

「友情とも、愛情とも呼べないなにか。受け入れてもらった。その事実が心を満たす。愛とは違うやり方で、でも確実に隙間を埋めてゆく。」という感情を自分のものとする。

これこそが、たとえと美雪のカップルの関係性であり、この小説の中で提示される「愛」というものではないだろうか。

そしてその「愛」は、心をひらくことから生まれる。心をひらいてお互いを理解しようとすること。

そんな風に自分もだれかを愛したいって思える小説でした。